1872年東京 日本橋
1933年東京 日本橋
1946年東京 日本橋
2017年東京 日本橋
1872年8月〜10月北京 前門
現在北京 前門
1949年前後北京 前門
1930年代北京 前門
1895年台北 衡陽路
1930年代台北 衡陽路
1960年代台北 衡陽路
現在台北 衡陽路
1904年ソウル 南大門
2006年ソウル 南大門
1950年ソウル 南大門
1940年代初ソウル 南大門
2017年12月16日、早稲田大学が主催した国際シンポジウムに参加し、日韓関係においてとげのような存在である日本軍「慰安婦」問題を中心に、和解に関する筆者の見解を明らかにした。ここではシンポジウムで筆者が言い切れなかった話、その後の日本軍「慰安婦」問題の動向などについて言及しようと思う。
朴(パク)槿(ク)恵(ネ)政権時の2015年12月28日、日韓外相会談での日本軍「慰安婦」合意(以下「12・28合意」と略す)に関して両国政府と国民の間に少なくない認識の差があった。また、韓国歴史上初めてだった朴槿恵大統領の弾劾で、7ヶ月程操り上げて実施された大統領選挙で、与野党を問わずすべての候補が12・28合意の破棄ないし再協議を主張し、日韓関係に否定的な影響を及ぼすと懸念された。
2017年5月9日に実施された選挙の結果、ともに民主党の文在寅候補が41.1%を得票して大統領に当選し、韓国初の女性外交長官に任命された康京和長官は合意経緯と内容を検討・評価するために、長官直属の「日韓日本軍慰安婦被害者問題合意を検討するタスクフォース」(以下「タスクフォース」と略す)を設置した。ハンギョレ新聞の東京特派員を歴任した言論人出身の呉泰奎(オテギュ)委員長をはじめとして外交部内外の専門家9人で構成されたタスクフォースは、2017年12月27日に、5ヶ月間の検討の結果、報告書を公表した。
表紙と目次および31ページの本文で構成された「日韓日本軍慰安婦被害者合意(12・28合意)検討結果報告書(以下「タスクフォース報告書」と略す)」では、12・28合意は被害者の意見を反映していない政治的合意であると規定しただけでなく、民主的手続きと過程が欠如したハイレベルな秘密交渉であり、韓国政府内の意志疎通と政策調整が欠如した合意と批判した[1]。
日本政府は外交交渉内容を一方的に公開したことに不快感を表明しながら、合意維持以外の政策の選択肢はないと一線を画した。ここではタスクフォース報告書の内容を簡略に検討した後、文在寅政権の基本立場と、それを土台にこの問題が今後日韓関係に及ぼす影響などについて展望してみたい。
2017年12月27日公表されたタスクフォース報告書は、次の通りに構成されている。
Ⅰ. 「日本軍慰安婦被害者問題合意検討韓日タスクフォース」 発足
Ⅱ. 慰安婦合意の経緯
(1) ハイレベル協議開始
(2) ハイレベル協議を通じた暫定合意
(3) ハイレベル協議の膠着及び最終合意
Ⅲ. 慰安婦合意に対する評価
(1) 公開部分
(2) 非公開部分
(3) 合意の性格
Ⅳ. 結論
紙面関係上ここではⅢの内容を中心に調べてみる。タスクフォースは、「12・28合意以後被害者の参加、水面下の合意、『最終的かつ不可逆的解決』等をめぐり提起された多様な『批判と疑惑』・『疑問と関心』に応えようと努力した」と指摘しながら、被害者の意見を反映しなかった政治的合意であり、日本側に一方的に有利な不均衡なものであったと規定した。また、その原因を朴槿恵政権の外交的無能と失敗に起因すると見なしたため、日本に対する批判は非常に抑制されていた。
翌日文在寅大統領も12・28合意は手続きと内容面で「重大な欠陥」があるだけでなく、国際社会の普遍的原則にも背くため、「この合意で慰安婦問題を解決することはできない」と言い切った。特に、合意の破棄と再協議を主張した人々が言った非公開の「裏合意」疑惑を事実上認めながら、文大統領は「非公開合意」の存在が現実に確認されたと指摘した。
では文在寅大統領が「非公開合意」と話した部分とは何か。タスクフォース報告書によると、12・28合意は「外交長官共同記者会見発表内容以外の非公開部分」とされて、「非公開部分は、①外交長官会談非公開言及の内容、②財団設立に関する措置の内容、③財団設立に関する議論の記録、④発表内容に関するマスコミ質疑応答要領」に関することだと指摘した。②-④は12・28合意により設立される財団に関することである。
外交長官会談後、岸田文雄外務大臣は次のように表明した。
「「当時軍の関与の下に、多数の女性の名誉と尊厳に深い傷をつけた」ことに日本政府は責任を痛感している。安部内閣総理大臣は「心身にわたり癒しがたい傷を負われた全ての被害者に心からおわびと反省の気持ちを表明」する。韓国政府が設立する財団に日本政府予算で資金10億円を拠出し、被害者の名誉と尊厳の回復と心の傷を治癒するための事業を実施する」
また、日本が約束した措置を着実に実施することを前提に、この問題が「最終的かつ不可逆的に解決されることを確認」し、駐韓日本大使館前の少女像の移転を韓国政府が努力するとした。
以上は12・28合意の核心的な内容といえる。外交交渉では自国の立場を相手国に表明し、食い違いがあれば追加的な発言を交換しながら、意見の差を狭めていくのが一般的である。外交長官会談後に公表された合意内容は、政治的な妥協であったという点は否めないが、日本側立場が一方的に反映されたものではなかった。それにもかかわらず、12・28合意批判派は、日本政府が韓国政府設立財団に10億円を拠出する代わりに、韓国政府は少女像の移転と「最終的かつ不可逆的解決」に同意する水面下合意をしたという疑惑を提起した。
被害者救済のために韓国政府は女性家族部の管理監督下、和解治癒財団を、2016年7月28日に設立した。このタスクフォース報告書が公表になる前まで、和解治癒財団の設立目的、事業とその実施体制、設立方法、日本政府予算の拠出手続きなどに関する両国政府の具体的な説明はなかった。
被害者支援のための事業として、日韓両国政府は合意当時の生存被害者に1億ウォンを、死亡被害者の遺族に2千万ウォンを各々支給することに合意した。生存被害者の47人の中で、現金受領を拒否した9人と、健康悪化で意志表示が不可能なケース、死亡したが遺族がいないケースなどを除いて、受け入れ意思を表明した36人中34人に現金支給が完了した(2017年7月現在)。
現金支給事業は被害者の名誉と尊厳を回復し、心の傷を治癒するための事業の一つに過ぎず、その他にどんな事業をするのか、日韓両政府がどんな協議をしたのかは全く知らされていない。そのせいなのか、日本では日本政府が和解治癒財団に10億円を拠出して、財団が被害者(または遺族)らに現金を支給すれば、日本政府の役割は終り、日本軍「慰安婦」問題は「最終的かつ不可逆的に解決」するという誤った考えが蔓延することになった。
改めてタスクフォース報告書に戻ってみよう。報告書には「非公開の部分」の「非公開の言及」は日本側が先に提起し、これに対して韓国側が対応する形式で構成されてある。また、こういう方法は「日本側の要求によりハイレベル協議」で決定されたが、ハイレベル協議とは両国外交当局の局長級協議が膠着状態に陥り、これを打開するために2015年2月に始まった、駐日韓国大使を歴任した李丙琪(イビョンギ)国家情報院長と、谷内正太郎国家安全保障局長の間の協議をいう。
特に、ハイレベル協議では、韓国挺身隊問題対策協議会等、被害者関連団体への説得、在韓日本大使館前の少女像、第三国にある慰安婦の碑(慰安婦銅像と石碑)、「性奴隷」用語など、国内的に敏感な事項が議論された。タスクフォース報告書は「非公開の内容」で、「韓国政府が少女像を移転したり、第三国で慰安婦の碑を設置できないように関与したり、「性奴隷(sexual slavery)」表現を使わないように約束したことではない」(24ページ、強調は筆者)と指摘したことに照らしてみると、「非公開合意」または「裏合意」というよりは、交渉過程で両側主張の内容を確認したものと筆者は考える。
反面、外交通商部東北アジア局長を歴任し、外交官出身でタスクフォース副委員長を引き受けた趙世暎(チョセヨン)東西大学特任教授は、最近出版した著書で、「外交長官会談非公開言及内容」というタイトルの合意文書は、単純に両側主張を整理したものではなく、両側が確認署名までの形式まで整えたと主張する。更に、趙世暎(チョセヨン)教授は2015年4月11日に、李丙琪(イビョンギ)-谷内正太郎間のハイレベル協議で暫定合意になって「両国政府が単語や表現一つ一つ粘り強く修正していきながら、文書の形態で暫定合意を成し」、「外交長なる官会談非公開言及内容」という名称と違い、「実際には両国政府が条約文案を持って交渉を行ったあげく、最終合意案を導き出したのと同じである」ので、「両国外交部長官の発言内容を記録したことに過ぎない」と過小評価してはいけないと指摘している[2]。
筆者は12・28合意過程で、重要な政府の公式文書を閲覧したことも、関係者に面談したこともないため、断定的に言えないが、タスクフォース報告書の内容と、副委員長として報告書作成に参加した趙世暎(チョセヨン)教授の主張の間に、差異が存在することについては納得がいかない。しかもタスクフォース報告書と趙世暎(チョセヨン)教授の著書に、信頼度に疑問を持つほどの内容の差が少なくない点も付け加えておきたい[3]。
タスクフォース報告書は、合意に至る過程で見られた日本側の立場に対しては、評価を留保したまま、朴槿恵政府の失策を指摘するのに汲々とした側面がある。タスクフォース報告書の指摘のとおり、筆者も12・28合意は条約でなく、政治的合意の性格が強く、両国首脳の追認を経た公式的な約束であると考える。しかし、合意以後、日韓両国政府は合意の性格や意味、合意履行の重要性を自国民や相手方国民に誠意を持って説明し、理解を求める努力をしなかったという点は、否めないであろう。
朴槿恵政府は被害者や支援団体はもちろん、国民に十分な説明をしなかったし、日本側の恣意的な解釈や主張に対しても積極的に反論を展開しなかった。12・28合意当日に、岸田文雄外務大臣を通じて、そして朴槿恵大統領との電話会談を通じて、責任を認め、謝罪と反省を表明した安倍総理は、その後の国会で、自身が直接謝罪と反省を表明するつもりは毫ないと話したため、韓国国民の激しい反発をかった。
しかも、日本政府は12・28 「合意精神」の重要性を強調しながらも、それが何を意味するのかに対する説明はせず、韓国政府が設立した和解治癒財団に10億円を拠出することで、あたかも日本側責任が終わったような歪曲された説明を繰り返すことによって、韓国国民を大きく失望させた。
日本軍「慰安婦」問題の敏感性や国民感情を考慮する場合、両国政府の細心な努力が必要であるが、両国政府は自分たちの責務をまともに履行したとは言えない。かえって合意がまともに履行されることが出来ない責任を、相手方に転嫁しようとしたという批判を逃れられなかった。
12・28合意は、日本軍「慰安婦」問題は法的にすでに解決されたという主張を、堅持してきた日本政府としては、「法的責任」を認めない範囲内でできる最大限の誠意を表わしたことかもしれない。そのため、被害者(または遺族)らに支給した現金の性格が何なのかについても、明確な合意が存在しなかった。賠償金ではないという日本政府とは違い、韓国政府は100%日本政府の予算により支出したものなので、賠償金の性格は強いと説明するのにとどめた。
タスクフォース報告書と文在寅大統領は、被害者の意見を聞かず、一方的に政府が推進した誤ったことだと言うが、多くの生存被害者(又は遺族)らは、自分達が被害者であるという事実が世間に知らされることを望まない状況の下、外交部は局長級協議過程で被害者と支援団体、専門家に会ったし、外交部は交渉進行内容を時々「被害者側」に説明した (タスクフォース報告書、26-27ページ) 。合意以後にも被害者(又は遺族)らに現金支給事業をすることにおいても、外交部と女性家族部、和解治癒財団は、生存被害者と個別に1-7回面談を実施したと知らされている。従って被害者の意見を反映しなかったとも言えない。
タスクフォース報告書の合意の非公開の部分が、交渉過程での争点事項に対する両側立場を整理したものなのか、または日本側の要求を韓国政府が事実上受け入れた非公開合意(裏合意)なのか、今は確認する方法がない。日本政府は肯定も否定もしていない。合意過程を検討してみた結果、問題点を発見したならば、タスクフォースがこの問題解決のために必要なことを、両国政府に勧告する内容が含まれていたらと残念に思う。
日本軍「慰安婦」問題と関連して「被害者らが受け入れられ、韓国の国民が『納得できる』解決のための措置を日本政府が取らない限り、首脳会談をしない」と言っていた朴槿恵大統領は、就任以後一度も被害者のおばあさん達に会わなかった。ところが、文在寅大統領は慰安婦被害者との接触範囲を広げた。2017年11月7日、国賓として訪韓しているトランプ大統領の大統領府招請晩餐に、慰安婦被害者を招請して驚かせたのに続き、2018年1月4日には8人の被害者を大統領府に招請し、病院に入院中の被害者を訪問したりもした。
大統領選挙キャンペーン過程で、12・28合意破棄や再協議の必要性を主張した文在寅大統領は、就任以後の発言は非常に慎重になった。しかしタスクフォース報告書発表以後は、前で触れた通り政府間公式的な約束にもかかわらず、12・28合意で日本軍「慰安婦」問題が解決されることはできないという点を明確にした。同時に文在寅大統領は「被害者中心の解決と国民と共にする外交」という原則の下、政府が早期に後続措置を用意するようにと指示した。
2018年1月9日康京和外交部長官は、12・28合意に関する文在寅政府の基本方針を発表した。その骨子は次のようである。
まずは、12・28合意に対する再協議不可方針を明らかにした日本政府に対する配慮であったのか、再協議を要求しないということである。被害者の名誉と尊厳の回復と心の傷の治癒のために、韓国政府がしなければならないことをするので、日本政府も国際的な基準により努力をしてほしいと婉曲に要請した。韓国政府が具体的に何をするのかに対しては、具体的言及がなかったが、康長官は被害者らが望むのは日本側の「自発的で真の謝罪」と付け加えた。
二つ目、日本政府が拠出した10億円は韓国政府予算で充当し、10億円の処理は日本政府と協議する。また、被害者支援のために設立された和解治癒財団の処理は、被害者と関連団体などの意見を取りまとめて決める。挺身隊対策協とナムヌの家(House of Sharing)や、日本軍「慰安婦研究会」など、12・28合意破棄を主張した支援団体と研究者らが、和解治癒財団の解散を主張したこととは一線を画した。
三つ目、日韓間の歴史問題と未来指向的な協力問題は分離して処理するという「ツートラック」方針を明言した。
四つ目、被害当事者の意志をまともに反映していない12・28合意は、真の問題解決にならないし、康京和長官が発表した内容も、被害者が願うことを全部充足させることはできないとしながら、謝罪した。
日韓両国政府の立場が正面から衝突するという最悪の状況を回避しようとする意図が伺えたが、いくつかの問題点を指摘せざるをえない。まず、再協議を要求しないであろうが、日本政府が被害者の名誉と尊厳回復と心の傷の治癒のために、努力をするのを期待するという発言は、日本政府が「自発的で真の謝罪」をしてほしいという要求であった。これは安倍総理が口頭または、文書で直接謝罪の意向を明らかにしたことがなかったことに対する反発でもある。安倍総理は2016年10月3日衆議院予算委員会で、直接謝罪する意志があるのかに対して「毛頭考えていないと」話し、韓国国民の怒りをかったことを思い出す必要がある。
筆者は、安倍総理が直接謝罪を表明しないのは、12・28合意に反対する支持者を説得しながらした約束のせいだという話を、日本のマスコミ関係者達から聞いたことがある。このような日本側の事情は、韓国国民の理解を得ることは難しいであろう。
また、2017年1月23日安倍総理は、衆議院本会議で日本政府は「合意を誠実に実行してきたし、日本側の義務は全部尽くしてきた」と話した。「日本側の義務」が何かは具体的に明らかにしなかったが、日本政府は日本マスコミを通じ、国民に10億円拠出が日本側の義務の全部であるように宣伝しながら、12・28合意が「最終的および不可逆的」合意という印象を植え付けたことは事実である。
韓国内の12・28合意批判派は、朴槿恵政府が「最終的および不可逆的」解決を約束したと批判したが、タスクフォース報告書は「最終的で不可逆的解決の前提に関する論議を産んだ」と指摘するのにとどまった。12・28合意に現れているように、日本政府が表明して韓国政府が確認した事項らが着実に履行される前提が達成された時、「最終的および不可逆的」で解決されるという点が確認されただけである。
そのような意味で、康京和長官が「慰安婦被害者方々の名誉と尊厳回復および心の傷の治癒」の重要性を強調したことは、意味が大きい。責任認定と謝罪と反省表明は、日本が一方的に取らなければならない措置であるが、被害者の名誉と尊厳の回復と心の傷の治癒は、日韓両国政府に与えられた責務だったと言える。これを実行に移すために作られたのが、和解治癒財団であり、具体的に何をするのかは両国政府の協議事項である。被害者と遺族に現金を支給する事業は、その一つであるだけであり、たとえそれが完了したといって終わるわけではない。
10億円の拠出と少女像の移転、「最終的および不可逆的」解決という話だけを浮き彫りさせようとした日本政府の挙動は、自分たちが強調してきた12・28 「合意精神」にも反することであった。12・28合意と外相を通じて対外的に謝罪を表明した安倍総理が、被害者らに直接謝罪表明をすることを「毛頭考えていない」という安倍総理の発言は、日本政府の反省と謝罪意志を疑わせて韓国国民の感情を極度に悪化させた。
再協議を要求しないけれど、12・28合意では問題解決にならない、という韓国政府の方針は、韓国国内世論と日本政府を同時に配慮した苦肉策だったが、日本側の反応は予想通り強硬であった。1月9日、ソウルと東京の外交経路を通じて抗議しただけでなく、河野太郎外相は全く受け入れないと言い切った。12・28合意履行が進行中ということが日本政府の認識であるため、日本政府の自発的な追加努力を期待する、韓国政府との間のギャップを縮めることは容易ではない。
しかも、翌日の1月10日の新年記者会見で、文在寅大統領は真実と正義・原則にともなう解決の必要性を強調しながら、日本が「真実を認めて」被害者に「真摯に謝罪し」国際社会と努力していけば、被害者も許すはずであり、それが「完全な合意である」と話した。文大統領は、康京和長官が明らかにした基本立場は、相手がいる外交問題で「現実的に最善の方法である」という見解を明らかにしたが、具体性が欠如した抽象的な話は、日本国民の反発と不信を招く可能性もあった。
実際に韓国政府の新方針発表以後、両国政府の立場に対する両国国民の世論調査を見ると、両国国民の認識の差が明確にあらわれた。韓国の世論調査機関のリアルメーターの調査(1月11日)によると、韓国政府の決定を事実上の12・28合意破棄と見なし、63.2%が支持したことが分かった。一方、読売新聞が1月12日-14日間に実施した調査によると、韓国政府の自発的で追加的な努力の要求を受け入れられないという日本政府の方針を支持する回答者が83%に達し、韓国を信頼できないという回答者は78%に達した。外交に世論と国民感情が介入すれば、絡まった糸の絡み合いを解くことはより一層難しくなる。
ご周知の通り国際社会の憂慮と警告にもかかわらず、北朝鮮は2017年6次核実験をし、米国本土に到達することもできる大陸間弾道ミサイル(ICBM)の試験発射を続けた。国際社会が北朝鮮に対する経済制裁と高強度圧迫を加える中で、アメリカのトランプ大統領が対北朝鮮軍事行動を示唆し、2017年には軍事的緊張が高まった。
しかし2018年に入り韓半島情勢は急変している。1月1日北朝鮮の金正恩国防委員長の新年挨拶を契機に、北朝鮮の平(ピョン)昌(チャン)冬季オリンピック参加、南北対話の再開、南北ハイレベル代表団(特使団)の相互訪問、4月27日と5月26日2回にわたる南北首脳会談に続き、6月12日には歴史的な北米首脳会談も開かれた。
北朝鮮の非核化問題にはまだ注目するほどの進展はないが、悪化した日韓関係は少しずつ改善の動きを見せている。2018年5月9日、韓中日首脳会談に参加するために文在寅大統領が日本を訪問した。韓国大統領としては、2011年12月李明博大統領の京都訪問以後、6年半ぶりであった。
一日だけの訪問であるため、大統領が「日本と気が合う真の友人になる」という意志を、直接日本国民に伝える機会はなかったが、安倍総理との首脳会談では、1965年の国交正常化以後、日韓関係の道標とも言える金大中-小渕韓日共同宣言20年を迎えて、両国関係を未来指向的に発展させていくことを確認し、首脳間のシャトル外交も継続することに合意した。
2017年約千万人の両国国民が往来するほど両国関係は緊密になったが、日本の植民地支配に起因した歴史問題は日韓関係を不穏にさせてきた。特に、今は水面下にある日本軍「慰安婦」問題はいつでも水面上に上がってき、両国関係を悪化させる。
以前に調べたことを土台に日本軍「慰安婦」問題と関連し、両国政府が何をしなければならないのかに関する筆者の見解を述べて小論を終わりにしたい。
まず、文在寅政権は、この問題に関する立場をもう一度整理する必要がある。12・28合意の再協議を要求しないとしながら、事実上12・28合意の根幹を変更しようとする矛盾を見せているからである。特に、日本政府の拠出10億円と和解治癒財団の処理は、12・28合意の核心的な内容の一つであったのに、これに関する韓国政府内の意見も一致していないようである。
1月23日鄭鉉栢(チョン・ヒョンベク)女性家族部長官は、ある新聞のインタビューで、被害者と関連団体が、事実上機能中断状態の和解治癒財団の解散と、10億円の国庫還収を要求していて、政府としてはこういう意見を尊重して処理するほかはないと明らかにした。しかし、外交部は最終的に政府の立場が決まったことではないと収束に努めた。生存被害者47人中の34人、死亡被害者199人中の58人の遺族に、現金が支給された状態であるが、この人々に支給されたお金は日本政府の予算から拠出されたのである。すでに支給したお金を返してもらうこともできなく、だからと言って韓国政府予算で10億円を充当し、すでに支給したお金を「韓国政府が支給したこと」に「理解を求める」のは、法的に不可能で国家の行為としても不適切である。
また、韓国政府が追加的な後続措置を出せずにいる中で、生存被害者が死亡しているという点も見過ごすことはできない。2016年と2017年にそれぞれ7人と8人が死亡したのに続き、2018年に入ってきても5人が死亡し、27人に減った(7月初め現在)。韓国政府が追加的な後続措置を出さなく、日本政府も12・28合意の履行を主張するばかりである状況で、生存被害者が死亡していくならば、両国政府は非難の矢を避けにくいであろう。
そのような意味で、筆者は両国首脳が会って虚心坦壊に意見交換をしなければなければならないと考える。去る2月9日、平(ピョン)昌(チャン)冬季オリンピック開幕式に参加するために訪韓した安倍総理は、12・28合意履行だけでなく、韓米連合訓練問題にまで言及し、文在寅大統領から激しい抗議を受けた。相手側にボールを押し付ける姿勢は望ましくない。
韓国では、日本政府がまともに責任を認めないで、謝罪と反省をしなかったと考える人々も少なくないが、これは事実でない。1992年1月11日朝日新聞が、中央大学の吉見義明教授が防衛庁(当時)防衛研究所で、旧日本軍が慰安婦の募集、慰安所の統制と監督、設置を指示したことを示す文書を発見したと報道するとすぐに、加藤紘一官房長官(当時)は、旧日本軍の関与を否定できないとし、謝罪と反省の意向を表明した。
後日、韓国を訪問した宮澤喜一総理は、国会演説と首脳会談等を通し、何度も謝罪を表明した。1992年7月と1993年8月、日本政府による日本軍「慰安婦関連調査結果発表と官房長官談話」、「女性のためのアジア平和国民基金」(アジア女性基金)事業の時、被害者に伝達した総理名義の謝罪手紙等を通し、日本側は韓国側が要求してきた「法的責任」ではないが責任を認めて謝罪と反省を表明してきた。
それにもかかわらず、日本国内にこういう事実を否定する動きがあることも、また事実である。しかし顧みれば、日本軍「慰安婦」問題が現在のような法的地位を占めるのは、日本の研究者と市民団体の役割も大きかったという点を、見過ごしてはならない。まだ解明しなければならない部分が多いが、それは両国の学者と研究者らに任せ、政府は批判でなく、相手側が取ってきた措置を評価しようとする肯定的な姿勢が必要である。
そのような意味で、外務省事務次官と駐米大使を歴任した栗山隆和大使が指摘したように、被害者は加害者の反省を受け入れて許す相互努力が重要である。そのためには、加害者が被害者の共感を得られるように、反省する真剣な態度が必要で、責任ある政治指導者が責任を相手側に転嫁しないで、責任を共有することが何よりも重要だと筆者は考える。
また、民主主義と人権など、基本的な価値を共有できる日韓両国は、北朝鮮の非核化だけでなく、中長期的な次元で朝鮮半島と東北アジアの平和・安定のための包括的な議論を深化させていく必要がある。さらに、そのような認識を両国国民に広めて共有できる努力をしていくべきである。
[1] 「タスクフォース報告書」は韓国語・英語・日本語などで公表されている。これについては、http://www.mofa.go.kr/www/brd/m_4076/view.do?seq=367886 (アクセス 2018年 7月 21日)参照。
[2] 趙世暎(チョセヨン)『外交外傳)』(ソウル: ハンギョレ出版, 2018), pp.157-158.
[3] 例えば、タスクフォースレポートと趙世暎教授著書には、谷内正太郎国家安全保障局長を国家安全保障会議事務局長で表現されている。国家安全保障局が国家安全保障会議事務局の役割をしているのは確かであるが、谷内の肩書きは、国家安全保障局長であり、国家安全保障会議の事務局長ではない。また、日韓両国の外交当局が公式のウェブサイトに掲載した日韓外相会談の発表内容に一致していない部分があると指摘(24ページ)している。韓国外交部は、日韓外相共同記者会見で発表した内容を、日本の外務省は、重要な内容の要約をまとめて掲載している点では差があるが、実質的な内容の違いはない。